中高年者の転職希望者と求人数のギャップは大きな雇用問題となっています。
日本国家の労働政策にあるキャリア形成支援策の中で中高年者の転職支援は最も難しいと言われています。ある調査結果によると、中高年者の転職志願率は3割を超えるが、転職率は4%程度です。国家も重要施策として毎年のように政策に掲げられているが、目覚ましい効果を出しているといえる状況ではありません。
そのような問題から、以前にミドル以降転職できた労働者にインタビューを行いました。インタビュー結果として転職して成功だった・うまくいっている人と後悔している・うまくいっていない人との差について図1の通りになりました。
図1中高年ミドルになっても転職できるためには
注目するところは右上の象限で、キャリア意識を持っており、ポータブルスキル認識を持っていることです。ここでのポイントは「ポータブルスキル認識」ができているか、できていないかです。
日本企業では若い頃から指示命令で言われたことをこなしてきました。様々に実務経験してきましたが、言われたことをこなしてきたことと、振り返る機会がないまま会社生活を過ごしてきた人が多いです。上司や同僚から「弱み」をいかに克服すべきかアドバイスされることはあっても、「強み」について触れられることはあまりありません。よって自身の「強み」や保有している能力に関して認識していない人が多く存在します。ある大企業に勤めている方に「何ができるか」インタビューしたところ、「部長ができます」と真顔で答えていました。
ではポータブルスキルとは何か。JHR(一般社団法人 人材サービス産業協議会)は業種や職種が変わっても強みとして発揮できる持ち運び可能な能力と定義しています。具体的な項目については図2の通りになります。
図2 ポータブルスキル(JHRマッチングフレームワーク)
ポータブルスキルは「仕事のし方」と「人との関わり方」に分類されています。「仕事のし方」は仕事における前工程から後工程のどこが得意かを見ます。「現状把握」「課題設定」「計画立案」「課題遂行」「状況対応」の5つになります。
「人との関わり方」はマネジメントだけでなく、経営層や上司、お客様など全方向の対人スキルを見ます。「社外対応」「社内対応」「部下マネジメント」の3つになります。
これまでは「専門知識・専門技能」が重視されてきましたが、不確実な経営環境下において、それだけで新しい職場で活躍できるかどうか計ることができなくなってきています。なぜなら変化の激しい昨今は常に課題があります。これからは目に見える課題をいかに解決してきたのか、見えない課題をどう発見しどのように解決してきたかが重要になります。
そこから言えるのは「現状把握」と「課題設定」が大切ということです。「仕事のし方」の「現状把握」「課題設定」ができると雇用されうる能力(エンプロイアビリティ)が高まるというのは、図1のインタビュー調査からも抽出されています。
しかし、日本企業においては、企画部門に所属する人が「現状把握」と「課題設定」を担っていることが多いです。企画部門が事業や製品サービスの市場や競合分析を行い、全体的な目標を立てます。その全体的な目標を各組織で割り当てて予算を設定し、各個人に落としていくことが多いです。以前のヒヤリングでは、職場リーダー(課長も含む)は「計画立案」をポータブルスキルとして持っていると伺いましたが、各個人に落としていく作業である場合が少なくありません。また言われたまま仕事をしている、受け身で働く人が身に付くポータブルスキルは「課題遂行」「状況対応」くらいにしかなりません。現在のような環境変化が激しいと、この二つのポータブルスキルだけ持ち合わしても現状維持にしかなりませんし、将来的に他へ移れなくなり非正規雇用になる可能性が高くなります。
企画部門に委ねていた「現状把握」と「課題設定」を現場で働く人全てがポータブルスキルとして身につくようにしていくことが大切になるのです。
そもそも現場も日々刻々と市場が変化していますので、「現状把握」と「課題設定」も日々使った方が市場動向を把握できます。また、主体的に行動しないとこのポータブルスキルは身に付かないものです。現場が製品市場を把握することで、そこからの課題を企業としてどう取り組むべきか議論できます。まずは現場でできることを主体的に取り組み実行すること。また現場で出来ないことで本社などに対応してもらいたいことについて声を届ける。結果的に新しい製品・サービスやCS向上、業績を高めることにつながる可能性が高くなります。
「現状把握」と「課題設定」ができるようになると、なぜ雇用されうる能力(エンプロイアビリティ)を高めることができるのか、インタビュー調査した事例から述べたいと思います。
自身が関わっているビジネスや製品サービスの「現状把握」「課題設定」を使っていると、市場や競合の情報の取り方や組織・職場の強みを見ることができるようになります。
「現状把握」「課題設定」を何遍も使っていると、自分自身に向けて使ってみたくなります。今まで培ってきたことを省みて、様々な情報から今後どういう分野でキャリアを構築していけばいいのか。またそうしたキャリアを構築するために、どのようにしてポータブルスキルを伸ばしていけばいいかと考えるようになるとのことでした。
企業も企画部門の人だけに「現状把握」「課題設定」をさせるのではなく、現場や全ての人が行うことができるようにしていくことが求められます。ただ、現場で働く全ての人にやりなさいと指示してもやらないし、元々できるスキルを持っているわけではありません。
企業からいわれるまま仕事をしてきた方の雇用されうる能力(エンプロイアビリティ)を高めるのはかなり厳しいです。そこで働く人のポータブルスキルを高めるキャリアコンサルタントに支援を仰ぐことが肝要になります。